イブ・ピアジェのこと

出会い

 はっきりとこれが私のファーストローズだと言い切れる品種が思いつかないのですが、あえて言うならこれがそうでしょう。

 スイスの宝飾品、時計の高級ブランド、ピアジェ社の会長イブ・ピアジェ氏に、作出したフランスのメイアン社から捧げられたバラ、だそうです。

 濃いローズピンクに芍薬のような華やかな花容、ダマスクモダンの素晴らしい芳香を持った花です。

 個人的には男性が好みそうなバラかなーと思ってます。女性はニュアンスカラーと言いますか、河本バラ園のシリーズやイングリッシュローズが好きなイメージ。

 

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2018年春のイブ・ピアジェさん

 

 このバラと出会ったのは、何年前でしょう。

 少なくとも17年前で、JAのグリーンセンターだったと記憶しています。まだ健在だった祖母が近所の里山に借りている畑に植える野菜の苗を買いに行きたがり、母の車で出かけた折りに、花苗を見ている母と一緒に色々見て歩いていて、

「バラほしいな」

 と言った私に、母が頷いて「フェンスにつるバラを這わせたいんだよね」と言ったのでした。

 その少し前に我が家は建て替えをし、庭もすべて一からという状態で、まだまだ寂しいものでした。ブルームーンと黄赤のバラが無くなった庭の奥の方に、家を建て替えて一年後に亡くなった三代目わんこのトイプードルを偲ぶための白バラがあるだけでした。 

 

 実はその白バラの横に、別の園芸店で購入したブライダルピンクなる可愛らしいピンクのバラ苗を植えていたのですが、素人且つ放置プレイで育てるのには全く向かない品種であったようで、祖母が周囲に植えこんだリュウノヒゲやらタチアオイやらに紛れているうちに枯れてしまっていました…。

 

 そんな流れで我が家にやってきた新しいバラ、何と恐ろしいことに私はロイヤルサンセットを迎えるまでこのイブ・ピアジェの名前を認識していなかったのです。しかも、つるバラというものについて、まったく理解をしていなかった!

 つるバラと書かれたタグだけを見て選び、大苗だったので実際の花付きどころか枝葉もない状態で我が家にやってきたその苗を、私はポスト横の玄関から一番近いフェンス際に植えました。

 そしてそのまま数年が過ぎました。

「つるバラっていうけど、ぜんぜんフェンスに絡まないよね~」

「そうだねえ」

 なんということでしょう。私は(母も)つるバラとは自分で勝手に、蔦のごとくフェンスやらアーチに絡んでいくものだと思っていたんですね……。

 しかも、このバラ異様にチュウレンジハバチに好かれるものだから、気が付くとあの憎い幼虫が葉っぱにわんさとついているわ、雨に弱くてすぐに茶色になるわ、見た目もあまり好みじゃないなーと思っていたこともあってかなり可哀想なことをしてしまったのです。

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イブ・ピアジェの現在の樹形

 今年の一月に撮った写真です。我が家のイブは一本足で、小文字のrのような形をしています。 縦棒部分はすごく太くなっていて、しかもハバチにやられるたびばっさり切っていたせいで、そこから即ステムが出て、ぼわっと鳥の巣のようなかたちに丸く花がいくつかつくというなんじゃこれは状態でした。

 ロイヤルサンセットを迎えた2017年にしてようやく、つるバラは勝手にフェンスなりに絡まない、長く伸ばした枝を横に倒して人間が括りつけてやらねばならないのだと知った私。取り返しのつかないこの樹形にすごく悩みました。

 rの縦棒部分はとにかくもう極太だし長く伸びる枝も出ない。位置的にもフェンスに括りつけるのは無理。かといって、木立性のように切って枝を増やす…にしても、株元からもう新しいベーサルシュートが出る見込みはない。考えた末に、rの縦棒を出来る限り切り詰め、一本だけ下の方から出ているサイドシュートを横に倒して、そこから新しい枝が出てくれるのを祈ることにしました。

 結果としては一枚目の2018年のようになんとなくつるバラらしい形になり、害虫駆除も頑張ったおかげで少しづつこの花姿や色合いにも愛着が湧いてきました。

 

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剪定の下手さにより、意図しない場所で咲くイブ・ピアジェさん

 

 このバラは、フルーツ香寄りのバラを愛好しがちな私でも逆らえない、圧倒的な芳香があります。植物にある青っぽさを感じさせない、まるで香水のようなすばらしい香りです。

 島田のバラ園にも何株も植えてあったので、そこそこメジャーなバラ園にはあるのではないかな。まだこの香りにであったことのない方は、機会があったら是非一度嗅いでいただきたいですね。

 数年間「ケバくて派手な色だなー。飲み屋のおばちゃんホステスの服みたいよな」とか酷いことを考えてたりした私も今では、長く頑張ってくれたこのバラをとても大事に思っています。本当ですよ。

 

現在のイブさん

 

 今年の1月に株元に寒肥をしようと思ったものの、周囲の土が固すぎて(すぐ横に母が植えてしまったアジサイがあるので、地下で熾烈な領土争いをしていると予想されます)どうにもならないので、浅く掘ったところに発酵油粕と馬糞堆肥を入れ、地植えバラ全部に寒肥した後に余った馬糞堆肥で、イブのみ株元をマルチングする勢いで盛り上げておいたところ、本当に久々に下目の位置から新芽が出てきました。

 

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株元の銀色のやつはネットで見かけたカミキリムシ避けのスチールたわし

  去年は鉢バラ用と同じペレット状の肥料のみで寒肥したけど、こんなところから新芽は出ませんでした。やっぱり株元を適当に耕すとか大事なんですね。

 ベーサルは難しいでしょうが、この新芽が良いサイドシュートになってくれるといいなぁと思います。

 イブ・ピアジェ春分を過ぎて蕾を二つ確認しました。

 今年も熾烈なハバチとの戦いを制して、あの天上の芳香を漂わせる花を咲かせたいと思います。

 

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無事に咲いてくれますように